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地球の海洋大循環を形成する深層流は、二千年の時をかけて深海をゆるやかに流れ、ハワイ島周辺海域に到達します。悠久の時の中で、栄養分をたっぷりと蓄えた深層水は、深海からそびえる巨大な火山ハワイ島にぶつかって表層へと湧き上がり、周囲に豊かな生態系を持つ海を築きました。
たぐいまれな地理的恩恵を受けるハワイ島沿岸には、イルカやマンタなどの大型生物をはじめ、多種多様な生物が暮しています。また、広大な太平洋で、餌の乏しい砂漠のような外洋を生きる生物にとっても、ハワイ島はオアシスのような存在になっています。そのためハワイ島沖には、沿岸では見られないクジラの仲間や回遊魚など珍しい色々な生物が集まってきます。
こうした貴重な外洋性生物は、大型生物ばかりとは限らず、カエルアンコウ(旧称:イザリウオ)のように小さな生物も現れます。泳ぐのが苦手なカエルアンコウは、沿岸の浅瀬で珊瑚や岩に擬態し、頭部にある釣竿のような疑似餌を使って獲物を待つ魚という印象ですが、外洋を泳ぐ種もいるのです。ハナオコゼという名前の外洋を生息域とする唯一のカエルアンコウで、水面を浮遊する海藻に擬態して付着し、沿岸から外洋を海流に乗って漂いながら、周囲に何もない大海で海藻に隠れる場所や餌を求めて集まる小魚を捕食します。
水面を浮遊する海藻の少ないハワイ島では、漂流する漁具などの人工物に付着していることが多く、写真のハナオコゼも沖合を浮遊するバケツの中で発見しました。漂流する人工物は、海洋生物やボートにとって危険なので回収した方が良いのですが、長期間水面を漂う間に生物の大切な家となっていることも多く、水から上げる時に離れまいと必死に集まる魚達の姿を見ると、回収すべきかどうか考えてしまいます。
いずれにしても、透き通るように美しい底の見えないブルーの海を、大きなクジラやサメと同じように、悠然と泳ぐカエルアンコウの姿には、大型生物に遭遇した時とはまた違う感動があります。
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